ハラスメント防止ガイドラインRegarding harassment
映画制作現場におけるハラスメント防止ガイドライン
一般社団法人 日本映画制作適正化機構
コンプライアンス委員会
1 映画製作者の責任と義務
映画製作者はハラスメントに対する方針を定め、ハラスメントに関する苦情の報告と調査のプロセスをスタッフに説明する義務があります。映画製作者は、ハラスメントが発生したことを知っていた場合、または知っていたはずだった場合、ハラスメントを終わらせるために迅速な是正措置を取らなければなりません。
- 映画製作者は、すべての映画作品の制作において、ハラスメントに関する法律、各省庁の指針など(別紙)を参照し、事業主が雇用管理上講ずべき措置に準じて、映画制作現場においてハラスメントを防止するための措置を講じてください。
- 映画製作者は、上記の措置を講じるにあたり、作品毎にハラスメント防止責任者を必ず選任してください。
- 映画製作者は、制作されるすべての映画作品について、製作予算・公開規模にかかわらず、ハラスメント防止の研修またはトレーニングをすべてのスタッフを対象に行うことに努めてください。実施にあたっては、法令や取引ガイドラインの遵守のみならず、制作現場にふさわしい相互の尊敬と尊重に十分配慮してください。
- ハラスメントの相談窓口は、映画制作のあらゆるプロセスからアクセス可能となるように工夫してください。電話、電子メール、書面など複数の報告手段を用意し、窓口には異なる性別の2名以上の担当者を置くことを推奨します。
- ハラスメントの報告を受けた窓口担当者は、厳正な調査が行われるまで相談内容に予断をはさまず、申立人に誠実に対応することに留意してください。
- 報告を受けた映画製作者は、申立てに迅速に対応するために、必要に応じて映適・コンプライアンス委員会と連携を取りながら、調査の透明性確保に留意してください。同時に、申立人および調査協力者が不当な契約解除、無視、除外等の不利益、報復から保護するための措置をすみやかに講じてください。
2 被害者、目撃者の行動指針
- 作品制作に携わるスタッフがハラスメント被害を受けた場合、または目撃した場合は、ハラスメントが発生した日時、場所、会話、行動などの事実関係を、可能な限りメモまたは電子メールなどに記録してください。
- 被害を受けた人がハラスメント違反者と話し合うことに抵抗がない場合は、何が自分にとって不快であったか、受け入れられない言動であったか、恐怖を感じたかなどを話し合う機会を検討してください。直接の会話でなくても、電子メール等での伝達が有効な場合もあります。
- 被害者、目撃者は、ハラスメント防止責任者に報告し、対応を委ねることも考慮してください。ハラスメント防止責任者は、申立人の主張が正当と認められる場合は、直接違反者と話し合い、改善・解決へ向けて行動する必要があります。
- 違反者との話し合いに抵抗がある場合や犯罪行為に類するハラスメントの場合は、直ちに所定の相談窓口に報告して下さい。被害を受けた人、目撃した人のどちらも同様です。時間が経過することで状況が複雑になることに留意してください。
上記のガイドラインは、適正な映画制作現場の環境整備に必要なだけでなく、作品制作にかかわるすべてのスタッフが一人ひとりの多様な個性や人格を認め、尊重することで、インクルーシブな職場を作っていくためのものです。
そのために必要な情報は「別表・参考情報」を参照してください。
別表・参考情報
【法律・法令】
- 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第30条の2」
- 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第11条」
- 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成十八年厚生労働省告示第六百十五号)」
- 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」
【研修・トレーニング企業】
- ピースマインド株式会社
https://www.peacemind.co.jp/(ホームページ)
問合せ:03-3541-8656 または ホームページ上段の【お問い合わせ】フォーム - 株式会社エス・ピー・ネットワーク
*ハラスメント対策も行う企業危機管理のコンサルティング会社です。
研修ご案内:https://www.sp-network.co.jp/movie_staff_training
問合せ:03-6891-5556 または https://www.sp-network.co.jp/contact
【パワハラの定義と例示】
職場におけるパワハラについて定めた法律「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」に基づき、厚生労働省は下記三要素を満たす言動をパワハラと定義しています。
- 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(優越的な関係)を背景
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える
- 労働者の職場環境が害される行為
映画の制作現場においては、次のような事例はパワハラに該当する可能性があります。
- 特に理由もなく大声でスタッフを怒鳴りつけ、威圧的な雰囲気をつくり出す
- 仕事のミスを注意するのではなく、人格を否定する発言をする
- 特定のスタッフだけチームから外し、仕事を与えない
- 飲み会への参加を強要する
- 過大な仕事を押し付け、深夜残業や休日出勤を強要する
- 「聞いてない」「無理」と非協力的な態度で集団で威嚇し、交換条件を要求する
制作現場における言動が業務上必要かつ相当な範囲であるかどうかは争点となる場合もありますが、映画製作者、ハラスメント防止責任者を中心にスタッフ間のコミュニケーションを密にし、常にインクルーシブなチームとなるよう不断の努力が必要です。
【セクハラの定義と例示】
厚生労働省では、「職場で行われる労働者の意に反する性的な内容の発言や性的な行動によって、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること」をセクハラと定義しています。
映画の制作現場においては、次のような事例がセクハラに該当する可能性があります。
- 大声、またはSNS等で、性的に露骨なコメントや冗談を言う
- 不必要かつ相手が望まない身体的接触(ハグ、キス、マッサージ等)を行う
- 性的なものを連想させる身振りを行う
- 仕事と無関係な年齢、容姿、性体験などに言及する
多様な国籍、異なる文化的背景を持ったスタッフが参加する作品などでは、ハグや頬へのキスは必ずしもセクハラではないとされることもあります。重要なのは、その行動が歓迎されないものだったのか、攻撃的なものだったのかということです。性的な関係を拒否したことで次回作の仕事から外すといったケースや、性的な言動を繰り返すことで撮影現場の雰囲気を悪化させるなどは重大なセクハラ行為です。パワハラ同様、映画製作者、ハラスメント防止責任者を中心とした予防措置が重要となります。
【ジェンダーハラスメントの定義と例示】
ジェンダーハラスメントは、「性別により社会的役割が異なるという固定的な概念(ジェンダー)に基づいた差別や嫌がらせのこと」と定義されています。パワハラ、セクハラのように法令での防止措置義務は定められていませんが、他のハラスメントの原因や背景となっているケースも多いので注意が必要です。
ジェンダーハラスメントに該当する事例は下記の通りです。
- 「女性だから」「男性だから」という理由で仕事をやらせたり、仕事を限定すること
- お茶出し、お酌は「女性の仕事だ」との価値観を押しつける
- 服装や振る舞いに「女性らしさ」「男性らしさ」を強いる
- 「女は無理しないで」など、本人の意欲を削ぐ発言を、いたわり表現だと思い込む
- LGBTなど性的少数者に対して、気持ち悪いなどと陰口を言う